IRフレームワークとは?
企業が海外に進出するとき、どの程度本社で「標準化」(国が変わっても製品の規格や機能などを変えない)を進めるか、逆にどの程度現地の市場や文化に合わせて「適応」(その国に合わせて製品の規格や機能などを変える)させるかが大きな経営課題です。I-Rフレームワークは、この「統合(Integration)」と「現地適応(Responsiveness)」のバランスを軸に、国際経営戦略を4つのタイプに整理する考え方です。
- グローバル型:本社が重要な意思決定を行い、海外拠点(支店)は標準化された製品・サービスの提供や販売に専念するスタイル。
- 国際型:本社主導ではあるが、海外拠点にも一部権限を与え、現地事情に合わせて柔軟に対応するスタイル。
- マルチナショナル型:海外拠点の自律性が高く、現地適応を重視するスタイル。本社は全体の方針を示す程度で、細部の運営は各拠点に任せる。
- トランスナショナル型:グローバル統合と現地適応を高いレベルで連携する、理想的ではあるが管理が複雑になるスタイル。
なぜ「現地適応」を重視する企業が増えているのか?
海外進出のハードルが下がり、中小企業でも海外市場へ挑戦しやすい環境になりました。このような海外進出において顧客のニーズを掴み、現地事情に合わせた柔軟な対応が求められるケースが増えています。
たとえば、
- 食品メーカーなら、国ごとに異なる食習慣や味付けの調整
- サービス業なら、スタッフの接客スタイルや価格設定の見直し
- ITベンチャーでも、言語・法律・商習慣への配慮
こちら現地の状況に合わせたローカライズが重要なのは、ご理解いただけるでしょう。
海外顧客への適応を支援する事業も増えている
私は、外国の方の起業や創業の支援をすることもあります。外国人が日本で、「インバウンド観光客に訴求するためのマーケティング支援事業」、「日本の抹茶を海外向けに企画・デザインし販売促進する事業」などの海外顧客向けにローカライズすることを支援する事業を行う外国人の方もいます。
また、現地にいる日本人コーディネーターと連携して、海外の市場調査や販売会社との提携を進めるケースもあります。しかし、これらのローカライズを支援する事業者はピンキリで、酷い現地レポートが送られてくることもあります。海外進出においてこれらの方の協力はとてもありがたいのですが、選定は比較検討しながら慎重に行いたいものです。
「マルチナショナル型」の特徴とメリット
I-Rフレームワークの中で「標準化よりも現地適応をより重視」するマルチナショナル型をピックアップして、本記事ではその特徴と利点を整理します。
3-1.特徴
- 意思決定の権限の分散
海外拠点や担当者にできる限り多くの権限を委譲し、現地判断で現地に特化した商品開発やマーケティング戦略を立てます。ここに一定の予算を割く必要性が生じます。 - 高い現地対応力
現地に精通した担当者が現地に合わせて価格・サービス・プロモーションなどを柔軟に変更することで、現地市場に根差した活動が可能です。 - 本社の役割は大枠の方針設定
本社は大まかな方向性や資金管理、ブランドガイドラインなどを示すにとどめ、現地担当者・現地拠点に任せます。中小企業の場合、そのリソースが限られているため、現地の担当の現地に通じた別事業者との提携で提携で進めることが多くなるでしょう。公的機関から紹介された現地コーディネーターのレベルが低いケースも見てきました。日本人であることにこだわらず、外国の方も候補に入れて選定するのが重要でしょう。言語が異なってもメールやチャットを使ってのコミュニケーションはずいぶん取りやすくなりました。
3-2.メリット
- 現地顧客のニーズを迅速に取り込む
商品開発やサービス変更のスピードが上がり、より早く現地顧客を獲得しやすい。 - 担当者のモチベーション向上
意思決定権限を持つことで責任感や当事者意識が増す。 - 文化・商習慣への深い理解が得られる
現場のスタッフが実際に運営を主導するため、企業全体として多様性が尊重され、新たなビジネスチャンスが生まれやすい。
マルチナショナル型導入に向けたポイント
現地適応を最重要視する方針を取り入れるには、本社と海外拠点の役割分担やコミュニケーション体制を整備することが大切ではありません。
- 現地に適した人材を配置する
権利移譲の成功は、現地を任せる人材の能力と信頼性が左右されます。語学力だけではなく、経営の視点や現地スタッフとのコミュニケーション能力が重要です。 - ローカル市場の情報収集を徹底する
顧客ニーズや既存の動向を把握するためのネットワーク構築が必要です。現地スタッフだけでなく、ジェトロや業界団体、商工会議所など、様々なチャネルを活用してください。 - 意思決定プロセスの明確化
どのレベルまで現地拠点が決定できるのか、どこで本社の承認が必要なのかをルールをできるだけ整備しましょう。 - KPIの設定とモニタリング
自律性が高く、本社の統制が低くなると経営リスクは高まります。定期的に目標と達成状況をモニタリングし、問題があれば早期に軌道修正を行う仕組みを作りましょう。
中小企業が「マルチナショナル型」を活かすために
中小企業の場合、大企業に比べて経営資源が限られています。 そのため、現地拠点への集中投資や大幅な分権化はリスクとも背中合わせです。
- スモールスタートを心にかける
まずはテストマーケットを設定し、小規模な投資や提携先との連携で始める。成功したら段階的に拡大していく方法が有効です。 - 現地パートナーを活用する
自社だけでなく、現地の販売代理店・提携企業・業界団体などと連携し、ノウハウやネットワークを活用してリスクと負担を軽減します。日本人のパートナーにこだわらず、外国人の方との提携も積極的に検討したいです。 - 定期的なフィードバックを重視した
オンライン会議ツールやクラウドサービスを活用し、本社と現地拠点との情報交換を密に行うことで、権限委譲しつつも経営状況を正しく認識できます。
まとめ
I-Rフレームワークを活用すると、企業が海外展開を進める中で「標準化」と「現地適応」のどちらをどの程度重視すべきか整理しやすくなります。 「マルチナショナル型」のスタイルをぜひ有力な選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
しかし、現地を任せるだけではリスク管理がおろそかになりません。本社が大枠の方針を示しながら、モニタリングやサポートを行う体制を整備することが重要です。ぜひ自社に合った国際戦略を組み立ててください。
ポイント
- 現地適応を最優先する経営スタイルは「マルチナショナル型」
- 海外拠点や担当者に権限を委譲することで市場の変化に引き続き対応しやすくなる
- ただし、本社の方向性と管理体制が考慮するとリスクが高まる
- スモールスタートと現地パートナーとの連携でリスクを抑えつつ挑戦を
現地市場を最大限に取り込むためのヒントとして、I-Rフレームワークの視点を活用してみてはいかがでしょうか。自社の事業特性を見極めながら最適なバランスを探り、海外進出を成功に導いてください。