「人時生産性」とは何か?ビジネス環境が求める新たな生産性指標を徹底解説

第1章:人時生産性とは何か

1-1. 人時生産性の定義

「人時生産性」とは、生産性を示す指標の1つです。生産性とは、「成果物(付加価値、売上、利益など)」と、その成果物を獲得するために「投入された経営資源の量(労働時間、資本、原材料など)」の比率で表されます。投入された経営資源をインプット、それをもとに事業を運営して得られた成果をアウトプットとすると、

【 生産性 = アウトプット ÷ インプット 】

で表されます。生産性が高いということは、少ない資源(インプット)で多くの成果(アウトプット)が得られている状態です。生産性は企業の業績を左右する重要な指標のひとつといえるでしょう。

生産性には、従業員一人ひとりによって生み出される付加価値に着目した「労働生産性」や、事業の元手となる資本の活用度に着目した「資本生産性」などがありますが、近年注目されているのが「人時生産性」です。人時生産性は労働生産性の一種で、従業員の時間あたりの生産性に着目した指標です。「従業員の労働時間」をインプット、「粗利額」をアウトプットとし、その比率で表されます。

1-2. 人時生産性の計算方法

人時とは、「1人で、1時間かかる作業量」のことを指します。たとえば、1人で1時間かかる作業は1人時、2人で1時間かかる作業は2人時となります。人時生産性は、この人時あたりの粗利益額を表すもので、従業員の平均的な単位時間あたりの作業量を示すものです。

具体的には、以下の計算式で算出します。

【 人時生産性 = 粗利益額 ÷ 総労働時間 】


第2章:人時生産性が注目される背景

2-1. 労働生産性から人時生産性へ

人時生産性と類似する指標に、労働生産性があります。労働生産性は、

【 労働生産性 = 付加価値額  ÷  労働投入量(労働者数または総労働時間) 】

で計算できます。付加価値額の算出方法にはいくつか種類がありますが、粗利益額もその1つです。労働投入量には労働者数を用いることが多く、その場合は「労働者1人当たりの生産性」として算出されます。

労働力に着目した生産性の指標として、これまでは労働生産性を用いることが一般的でした。しかし、働き方改革や雇用環境の変化を受け、従業員の働き方や雇用形態、労働時間が多様化している中で、労働者1人あたりで評価する労働生産性より、単位時間あたりで評価する人時生産性の方がより適した指標として注目されています。

その他にも、経営上の指標として人時生産性が重要視されている背景には、以下のようなビジネス環境の変化があります。

 

2-2. 市場における競争の激化

市場競争が激化しており、製品・サービスにおける品質や機能での差別化がますます困難になっています。このような状況では、価格競争による収益率の低下が懸念され、よりコスト削減が求められます。収益性を確保するためには、生産コストを抑えながらも顧客価値を維持・向上させることが重要です。

そのために注目されるのが「人時生産性」の向上です。労働時間あたりの付加価値を最大化することで、より少ないリソースで同等の成果を得ることが可能となることになります。このような運営体制を確立できれば、有利な価格設定や迅速な市場対応が可能となり、長期的な競争力強化につながります。

 

2-3. 働き方改革による労働時間制限

日本をはじめとする多くの国では、働き方改革や制度の整備により、時間外労働の上限規制など労働時間に対する規制が強化されています。限られた労働時間の中で、従来どおりかそれ以上のアウトプットを生み出す必要があるため、個々の従業員の「1時間あたりの生産性」が重要視されるのです。

「人時生産性」が注目される背景には、このような労働時間の規制が存在します。労働時間が削減しながらも収益や顧客満足度を維持・拡大するためには、組織内の業務フロー改善、ITツールの活用、教育・研修によるスキルアップなど、従業員1人ひとりの時間効率を高める努力が求められます。

 

2-4. 少子化による高齢労働人口減少

生産年齢人口が減少し、労働力が不足すると人材獲得競争が激化し、採用活動が難化すると考えられるため、既存の従業員の生産性を高めていくことが重要です。

少子高齢化が進む社会において、生産年齢人口の減少は避けられない課題となっています。労働力が不足すると人材獲得競争が激化し、採用活動が難化すると考えられます。また、年齢構成の変化によって、育児・介護との両立など多様な働き方への対応も求められ、従業員1人あたりの労働時間の確保がさらに難しくなるケースも考えられます。

人時生産性の向上は、限られた人材と時間の中で最大の成果を得るための戦略的な手段ともいえます。適切な人材配置、柔軟な勤務体系の導入、スキル再教育による生産性アップは、持続的に組織が成長し続けるための鍵となります。

 

2-5. グローバリゼーションの影響

グローバル化が進む中、自国よりも人件費を低くおさえて製造できる国で生産したり、安い部品や原材料を海外から調達することが容易になりました。その結果、企業は生産コストを大幅に削減することが可能になりました。また、市場は国内に留まらず海外へも拡大している状況の中で、海外からの低価格商品の流入も起こり、価格競争は一段と激しさを増しています。

このようなグローバリゼーションの影響により、企業は競争力を得るために生産性を向上させる必要性がより高まっています。

グローバル化が加速した結果、企業は海外からコスト競争力の高い部品・材料・製品を調達し、安価な労働力を活用できる生産拠点を選んだりと、コスト最適化の選択肢を拡大しています。また一方で、海外からの低価格製品の流入により、国内企業はさらに厳しい価格競争にさらされることになりました。

このような状況では、単純なコスト削減だけでなく、各人材が限られた労働時間の中で高い付加価値を生み出せるかどうかが勝敗を決することになります。人時生産性の向上は、グローバルな市場においても勝ち残るための重要な戦略的アプローチなのです。

 

まとめ:人時生産性、それはこれからのビジネスを切り開く鍵

人時生産性は、企業が現代のビジネス環境で持続的な成長を実現するために重要な指標です。 市場競争の激化、働き方改革による労働時間の課題、人材獲得難による労働力不足、そしてグローバル化による激しい価格競争といった多面的な環境変化が、企業の在り方を真っ向から問います。

人時生産性向上の鍵は、一度きりの改革ではありません。継続的な業務改善、スキル開発、組織構造の最適化、そしてテクノロジー活用による生産プロセスの自動化や効率化など、複合的な取り組みが求められますさらには、これらの努力により社員が「少ない時間で大きな成果を生み出せること」を実感し、やりがいのある働き方を実現できると、長期的な競争力の維持につながるはずです。

それは、企業が競争環境を生き抜くための基盤づくりであり、組織が「人の時間の価値」を最大化するための持続的な挑戦です。これからの企業経営において、人時生産性は、将来を切り拓く重要なキーワードなのです。