エフェクチュエーションとは何か?
エフェクチュエーション(Effectuation)とは、起業家が不確実な状況下で柔軟かつ主体的に事業を進める際に用いる意思決定のスタイルです。一般的には、あらかじめ定めた「目的」から逆算して手段を検討する手法(コーゼーション:Causation)と対比されます。エフェクチュエーションは、「いま自分が持っている手段を活かして、何ができるかを探りながら事業をデザインしていく」とう発想が特徴です。
不確実性が高まる現代では、どれだけ事前に計画や予測を立てても、思いがけない出来事や環境変化によって計画が崩れてしまいやすくなっています。こうした状況下では、事前の予測を正確に立てるよりも、「まず手を動かし、自分にできることを実行してみて、そこから得た知見や周囲との関係性を活かしながら柔軟に修正していく」アプローチが有効となるケースが多いのです。
このエフェクチュエーションは、経営学者のサラス・サラスバシーが多くの起業家に対して、スタートアップの過程で直面する典型的な10の意思決定課題について回答を求め、その思考プロセスを分析し、共通項を抽出して後天的に学習可能な理論として体系化したものです。これから起業・創業を考えている方には、実践のヒントやアイデアが数多く詰まっている理論だといえるでしょう。私もとても好きで、影響を受けている考え方です。
この記事では、これから事業を立ち上げようとしている創業者の方に向けて、エフェクチュエーションの基本的な考え方と、実際に活用するときのポイントを解説します。
エフェクチュエーションの5つの原則
エフェクチュエーションには、以下の5つの行動原則があるとされています。いずれも「不確実な未来を予測する」よりも、「いまある手段や人脈、そして突発的に起きた出来事を活かす」姿勢が重要視されます。各原則を下記に解説します。
1. 手中の鳥(Bird in Hand)の原則
手中の鳥(Bird in Hand)の原則とは、「今、手元にある資源やスキル、ネットワークを起点に事業機会を探っていく」という考え方です。
- 例:製品製造の際に使用していた温水を、新たな農業ビジネス(イチゴのハウス栽培など)に転用する
- ポイント:新規の投資をいきなり行うのではなく、すでに持っているものを最大限に活かして、リスクを抑えながら新しい事業に挑むという考え方
2. 許容可能な損失(Affordable Loss)の原則
許容可能な損失(Affordable Loss)の原則とは、「どれだけ利益を得られるか」よりも「どれだけ損失を許容できるか」を基準に意思決定を行う考え方です。
- 例:大きな目標数値を掲げるのではなく、投資額に上限を設けて小規模で始め、段階的に店舗数を増やす
- ポイント:限度を決めておけば、大きく失敗してもダメージが小さいため、状況に合わせて素早く戦略を変えやすい
3. レモネード(Lemonade)の原則
レモネード(Lemonade)の原則とは、「予測不可能な出来事やアクシデントなどを回避しようとするのではなく、むしろ好機として活用する」という考え方です。
- 例:大災害によって企業が被害を受けたが、その分マスメディアの注目を集めやすくなったタイミングでPRを強化する
- ポイント:想定外の出来事を常にネガティブに捉えるのではなく、事業を拡大するチャンスととらえて柔軟に対応する
4. クレイジーキルト(Crazy Quilt)の原則
クレイジーキルト(Crazy Quilt)の原則とは、「これまでに構築した人脈をもとに事業のパートナーとなるネットワークを築くのではなく、実際に行動しながら一緒に何かをしてくれるパートナーと知り合い、そういう人を巻き込んで事業を作っていく」という考え方です。
- 例:新製品にクレームを入れた顧客を巻き込み、改良プロセスに参加してもらうことで、より良い製品へと発展させる
- ポイント:顧客・取引先・協力者など利害関係者を起業の早い段階から取り込み、一緒に事業を作り上げることで、より現実的な改善や製品開発が可能になる。クレイジーキルトの原則では、そういう出会いが生まれる場に身を置くということがとても重要。
5. 飛行機のパイロット(Pilot in the Plane)の原則
飛行機のパイロット(Pilot in the Plane)の原則とは、「予測困難な未来を読み切ろうとするより、自ら行動し、コントロールできる範囲を広げることで未来を創造する」という考え方です。
- ポイント:まるで飛行機のパイロットが、自らの操縦によって行き先を決めるように、周囲の状況に合わせて臨機応変に方向転換しながら、自分たちにとって好ましい未来に近づけていく
エフェクチュエーションを活かすメリット
- リスクを最小化しつつ、事業機会を逃さない
事前に大きな計画を作りすぎると、変化が起きた際に機動修正が難しくなります。エフェクチュエーションは、小さなリソースから試し、結果を確認しながら必要に応じて方向を変えていくため、突発的な機会にも乗りやすく、失敗した場合のダメージを抑えられます。 - 思わぬシナジーの発見
「手中の鳥(Bird in Hand)」や「クレイジーキルト(Crazy Quilt)」の原則を意識すると、当初は想定していなかった組み合わせや協力関係を発見できる可能性があります。新たな事業アイデアや製品開発のヒントを得るきっかけになるでしょう。 - 顧客・パートナーとの関係性強化
既存の人脈や新たに出会った顧客のアイデアを積極的に取り入れていく姿勢を持つと、こういう柔軟で素直なスタンスにより周囲からの信頼や協力を得やすくなります。こうした関係性が新規事業の成長を後押ししてくれます。事業成功は、いかに協力してくれるパートナーを築いていけるかによります。
実践のポイント
- 今持っているリソースを書き出してみる
- 人脈、スキル、資金、設備、ノウハウなど、自分がすでに保有しているものを全て洗い出してみましょう。そこから、新しいビジネスアイデアを導き出す習慣を身につけることが大切です。
- 「ここまでは損をしても大丈夫」という線を明確にする
- 事業拡大の際に「利益を最大化する」ことばかり考えるのではなく、「どれくらいの損失までなら許容できるか」を具体的に設定してみてください。リスクをコントロールしやすくなり、より積極的にチャレンジできます。
- 困難や想定外の出来事を活かす視点を持つ
- 不測の事態が起きても、「どうやって乗り越えるか」と構えるだけでなく、「これをきっかけに何かできないか?」とポジティブに捉えてみると新たなチャンスが生まれることがあります。
- 周囲を巻き込むコミュニケーションを意識する
- 顧客や協力者、パートナー企業などからアイデアをもらったり、一緒に試作をするなど、協働の輪を広げましょう。自分だけの発想に固執せず、様々な人のことばに耳を傾け、周囲との共創によって新たな価値を生み出す姿勢が大切です。
まとめ
エフェクチュエーションは、「不確実な環境下でどのように事業を動かしていくか」を考えるうえで、非常に有効な思考法です。未来を予測するより、「いま手元にある資源・ネットワークを活かしながら柔軟に事業を形成する」ことで、リスクを抑えつつ新たなチャンスを掴む可能性が高まります。
これから創業を目指す方は、まずは小さく始めて結果を見ながら軌道修正する姿勢を身につけてみてください。予想外のチャンスに出会ったときこそエフェクチュエーションの真価が発揮されます。「どれだけ不確実な環境でも、自分たちの行動次第で未来を形づくっていける」という考え方をぜひ実践に取り入れてみてください。